• 文芸出版七十年

一期一湯 都内湯屋巡り「高砂湯」(中野区・中央)

中野駅南口より徒歩七分、住宅地のど真ん中にある高砂湯、いつもながら天井の高い銭湯は妙に落ち着く。水風呂の左手、薄暗い四畳半ほどの露天風呂から夜空が望める。棕櫚竹の大鉢に見下されて「我思う、故に夜空あり」などと呟く。すると隣のご老体が詩吟らしきものをうなり始め、妙にしんみりし始める。しかし露天とは上手な漢字の組み合わせだ、としみじみ思う。
風呂あがり、人混みの中に紛れれば、もはや群衆のなかの一人だ。冬場の銭湯は下半身、特に足まわりがずっとほかほかで、その後に赴く駅前のバーでの角ハイが更においしくなる。大げさかもしれないが、格好な寄り道のとまり木に人生を考える一杯が待っている。(2013・霜月)