• 文芸出版七十年

一期一湯 都内湯屋巡り「改栄湯」(台東区・三ノ輪)

 都内唯一のチンチン電車が都電荒川線。早稲田から十数キロ、二十九の駅をたどりその終点が三ノ輪橋駅(荒川区)だ。しかしその橋自体は昭和の初めに音無川とともに暗渠となり今は駅名に残るのみ。脱衣をして後の冬場の立ちシャワーはお湯がでるまで数秒待たなければならない。たとえ少量でも水を無駄にするのもいやだし、かといって冷水を浴びたくもないし、そこで屈みケロリン桶でお湯を浴びてからなら、水もそう冷たくは感じない。富士山ではなくタイル絵には動物神輿が登場。先頭から狸、ムーミン?犬、猫、狐、どん尻は熊さん。子狐が大団扇を振り二匹の燕も小象とともにエールを送る。湯気で反対方面は視界不良。アナログ温度計が正しければ、46℃はかなり熱く我慢の限界はせいぜい1分。数度サバ読みなのか。
 近くに永久寺がある。中国の哲理、五行を経て平安時代から始まったという不動尊信仰。宇宙の現象(庶民にすれば日々の天候の変化)を地・水・火・風・空の五つに分け、それを白・赤・黒・青・黄の五色で表し、江戸五色不動にあいなった。その頃の識字率はどの程度だったのだろうか?この寺の別名は目黄(めき)不動尊。色でなら誰にでも理解しうる。それならいままで何気なく利用していた山手線の目白も目黒も、昔の人々の気候変動に対する畏怖と感謝が地名として残り、その伝承の思いが息づいていたのか。そう思うとわが銭湯手帳、カイエ・ド・セントーも教養の幅が拡がる。ちなみに三ノ輪は、遠い日にこの地が海に突き出た岬であったらしいことから、水の輪(水の鼻?)が歳月を経て「みのわ」になったらしい。 (2014・睦月)