• 文芸出版半世紀

一期一湯 都内湯屋巡り「第三玉の湯」(新宿区・白銀町)

 地下鉄・神楽坂駅から徒歩5分、大久保通り沿いにある。雲のたなびく富士山の下、湯につかり十数人が黙々と体を洗い、流す。有料のサウナと水風呂を何度も往復する若者がいる。近くに善國寺がある。石段をあがると一対の石寅、少し大柄の狛犬風で虎という感じではない。そして堂内にある御本尊・木彫りの像が四天王の一人、神楽坂を守護してくれる毘沙門天(多聞天)さんが。
夜店が並ぶ下町の風物詩、いわゆる縁日はここ神楽坂で始まったという。神楽坂は明治から昭和二十年まで、震災も免れ岡場所をもつ繁華街だった。泉鏡花は芸妓桃太郎と結婚、漱石が使った原稿用紙を売る山田紙店は健在だが、小説に出てくる田原屋(喫茶店)はもうない。路地裏には牡蠣専門の割烹、順番待ちの蕎麦屋、イタリアン・フレンチなど小粋な店がひしめく。かつて白秋が詩にしていた暗い大正の風情は狭い路地裏にもないようだ。
追記:山田紙店は平成終わりに廃業していた。(2014・皐月)