• 文芸出版半世紀

一期一湯 都内湯屋巡り「照の湯」(江戸川区・南小岩)

 レトロな、あまりにレトロな昭和そのものの湯屋だ。番台は昔風で両翼が望める。
四十人は座れるガラン、それなのに日曜日の夕方、私を入れて四人。定番のペンキ絵は男女とも青く塗りつぶされていて何ともさびしい。
 温水から熱水まで三つに区分けされた湯殿の中央には、高さ40センチ程のビーナスが立つ。台座と共に六十年、歳月の水垢で煤けてはいるが、温水で日々沐浴をしていることになる。女湯との境はタイル絵、そこにも岸辺に佇むビーナスがいた。こちらは汚れる心配はない。更衣中に幅4メートルもある資生堂の男子用化粧品の広告を見つけた。男性ではなく男子用、例のロゴも白黒版で、昭和三十年代の雰囲気だ。そこで女将さんに聞いたら、昭和二十九年創業という、私の勘はあたった。その下には冷水と温水二つのポット、ご自由にお飲みください、とある。そんなお客への優しさに感動した。
その後は小岩駅北口から数分、季節料理と日本酒の美味しい「夢屋」さんへ。マスターは三十年以上も夢を売っている。 (2014・神無月)