• 文芸出版七十年

一期一湯 都内湯屋巡り「若葉湯」(新宿区・若葉)

四谷からも、信濃町からも十数分。若葉とはなんと清々しい地名だろう。さて男子便所の脇には幾つもの水槽に ランチユウがころころした大きなお腹を抱えて溢れるほど。浴槽の入口前、ガラス戸の脇にも口をポカンと空けて酸素のご馳走を美味しそうに頬張っている。こちらは小指ほどのランチユウが三十匹程、我々男性の裸を見ながら遊泳中。湯殿は二つ、シャワーは一つ。水風呂はなし。富士山は描かれていなくとも、ご主人の名字に松が付けばそれで満足。ところで行きがけに見つけた石材店。ガラス戸の玄関前に、怒ったブルドックよりもかっこいい仔犬程の狛犬が一対、怖い顔で石の台座に鎮座している。坂と寺の多いこの辺り、有名なたいやき屋さんや「ぱる出版」、左門町に怪談・お岩さんのお岩稲荷田宮神社と、於岩稲荷霊神があり、どちらも赤いマフラーのお狐さんが大勢で迎えてくれる。  (2013・神無月)