• 文芸出版七十年

一期一湯 都内湯屋巡り「勝どき湯」(中央区・勝どき)

 十返舎一九の碑がある東陽院の反対側、高級マンションの地下に勝どき湯はあった。
弾む会話が隣からよく聞こえる。壁一枚はさんで、こちらも生まれたままの姿に。浴槽は八畳分の広さ、更に二畳分の水風呂があり、ちょっとした温泉気分が味わえる。デジタル温度計が冷水一四度、温水四十三度を指す。サウナから水風呂を往復し、冷水のなかで体を揉んでいる老人がいた。 
佃、月島、勝どき、豊海は三ヵ所に分かれ海に浮かんでいる。そのうち勝どきと豊海は隅田川と朝潮運河にはさまれ、築地市場と浜離宮が対岸だ。二回目のオリンピックまでには豊洲に新市場が、晴海には選手村ができるという。かつて昭和二十年代、住居のない人が船 上で生活をし、佃周辺では白魚漁が盛んだ った。勝どき周辺は昭和二十年三月の空襲 で焼けなかったところもあるのだろうか、区画の狭い路地裏があり、居並ぶ木造家屋のぬくもりが私を和ませた。缶ビールを買い、帰路は大江戸線で。(2013・冬)