• 文芸出版七十年

一期一湯 都内湯屋巡り「改良湯」(渋谷区・東)

昨年秋に東横線が地下にもぐっても、渋谷駅周辺はいまだ工事中。なんと2027年完成という。しかし10数分歩けば大きなひらがなの幟「ゆ」が私を迎えてくれる。曇り硝子をよく見れば魚に混じり東郷青児風の人魚が居ずまいを正している。トイレは清潔、ケロリン桶で一湯が始まる。圧巻はタイル絵、男女ぶち抜きで一面に広がる長大な白樺の風景。皆これから仕事なのだろうか、隣からも声は聞こえず、ラウンジに湯上りの客は集わない。テレビは開幕前のソチ五輪を伝える。
無言の脱衣所には三人、風呂上り私のそばで黙々と着替えている若者、その背中一面に紋紋がいきいきと映えている。これから半世紀、どこでどうこの若者は生きていくのだろうか。あっしには関わりのないことだけれど。
帰路は缶ビールを求め、裏道から渋谷を目指すと氷川神社入口にたどり着いた。階段を登るので神社は遠慮し、入口の公園内にある「土俵」を檻の外から眺めた。ところで氷川神社は関東に二百数十あるという。 (2013・師走)