• 文芸出版七十年

一期一湯 都内湯屋巡り「増穂湯」(世田谷区・南烏山)

 薄緑色にくすんだPh7・7の軟水はすべすべ・ぬるぬるで温泉に入った肌触り。鉱物の成分表も掲げてある。富士は男女の境にどちらからも見えるように描かれ男湯側は芦の湖風。湯船のタイルには富嶽参拾六景から淀川や日本橋の絵も。
丸山清人絵師の作品を見て湯殿に入ると温泉気分になれる、そうなると脱衣所に掲げられた田村隆一「銭湯教育論」は教訓的で少し白けてしまう。そんな折に風呂上り秩父神社の「親の心得」四箇条を発見。周囲を気にしながら裸でメモを取り始める。
「赤子には肌を離すな」
「幼児には手を離すな」
「子供には眼を離すな」
「若者には心を離すな」
至極ごもっとも。さてそれなら、老人にはどうしましょうか?痴呆・遠路徘徊を予測して「健康保健証を首から離すな」などは悪用されたり、個人の情報・尊厳に係わってしまうのかな? (2013・師走)