• 文芸出版七十年

「銀嶺の果て」(1947)

◎「銀嶺の果て」(1947 昭和22年 東宝) 88分、白黒
監督:谷口千吉 音楽:伊福部昭 脚本:黒澤明 共演:志村喬ほか

◎  ストリー 昭和二十二年、当初は撮影部での勤務を望んでいた二十七歳の三船だが、車中で偶然に三船を目にした谷口監督からその「ガラの悪い」風貌を認められ、なんとこの映画の主役に抜擢されたという。
 後の「ゴジラ」にみられる伊福部の変拍子のリズムがつくる緊張感は、映画冒頭の三人組の銀行強盗をトップで伝える輪転機の音に臨場感を与える。
 三人組が追っ手を逃れて旅館に籠る。しかし程なく片手の指を手ぬぐいで隠していることを他の客に怪しまれて(志村)雪山に逃げ込む。強奪した金の分け前ではなく、今後の進路で内輪もめをするが、一人(小杉義男)はすぐ亡くなり、残った二人、首謀者役・志村と三船の逃避行が始まる。雪山を重装備で追う警察と警察犬に追われて何とか逃げ切るが、もう凍死か、と思われたその時、煙が立ち上るヒュッテを見つける。雪崩のシーンを含めて映画全体を仕切る雪山での長期ロケで練り上げた映像も魅力的だが、このスキー小屋(ヒュッテ)を営む爺や(高堂国典)、少女(若山セツ子、なんと三船と同期・東宝ニューフェイス第一期)と若者(河野秋武)が加わり五人が五人のそれぞれの思いを語り映画の核を織りなしていく。たどり着いたヒュッテであたたかな食事をむさぼる二人を見つつも爺や、乙女、登山好きの若者はまだ事情を知らない。運よく?ラジオは故障中、伝書鳩は無残にも殺され、情報は遮断された。まあ待て、と志村は時期を伺い、三船は一刻も早く出てしまいたく感情を露わに切れ始める。達観したように爺やは温かく客人をもてなす。乙女は二人に様々なことを、これまでの生き方を質問する。たぶんドイツ語を学んだと思われる山男の若者は蓄音機で「ケンタッキーの我が家」をかける。じっと聞き入る志村。ところで二階の二段ベッドにドイツ語で「登山客の皆様へーーー 〇〇××はおやめください」とおおきく看板がかかっていた。若者を脅し、ついに脱出を決行する。雪山での争いのなかで三船は命を落とし、志村は片脚を怪我した若者を背負い(捕まるのを覚悟で)ヒュッテに戻る。